介護保険の住宅改修20万円は、1軒に1つではありません。同じ家に住民票を置く要介護・要支援の人が2人いるなら、見積の品目を分けて2通で申請できます

共通組版のアイキャッチ。左に「工事は1回でも、申請は1人とは限らない」の文字と「介護保険の住宅改修費と、同じ家に2人いるとき」の小見出し。右の濃い緑の円の中に、文字のない図形。生成り色の1枚の紙に横罫が6本引かれ、紙は段のついた割れ目で上下2つの片に分かれている。割れ目はどの罫線も横切っておらず、朱色の1本の罫線だけを避けて下へ回り込み、その1本は上側の片の中に丸ごと残っている シニアの家計管理

トイレの工事の見積に、こんな3行が並ぶことがあります。便器を和式から洋式に取り替える。床の段差をなくす。手すりを付ける。

同じ家に、要介護か要支援の認定を受けた人が2人いるなら、この3行は1枚の申請書に載る必要がありません。便器の取替えを妻の分、床の段差の解消と手すりの取付けを夫の分として、分けて申請できます。同じ部屋の、同じ1回の工事です。

八王子市の手引きと豊後大野市のQ&Aが、この場面をほとんど同じ文言で載せています。八王子市は、その出典を厚生労働省の回答と書いています。問いは、各々の必要度に応じて工事を設定することは可能か。答えは、重複しなければ可能です。例に出てくる2人は、妻が要介護1、夫が要支援という組み合わせです。

なぜ分けられるのか。介護保険の住宅改修費の20万円という上限が、家ではなく人に付いているからです。

法律の条文は、この上限を「居宅要介護被保険者が行った一の種類の住宅改修につき支給する居宅介護住宅改修費の額の総額」に対して置いています。主語は被保険者、つまり一人の人です。上限の単位として「住宅」という語は、法律の条文には一度も出てきません。省令の算定式も同じ形をしていて、そこで差し引く過去の支給額を、その人自身に支給された分に限っています。同居する別の人の支給額を足し合わせる仕組みは、条文のどこにもありません。

要支援の人にも、鏡のように同じ条文が置かれています。介護予防住宅改修費という別の名前の給付ですが、20万円の立ち方は変わりません。2人とも要介護である必要はありません。

この帰結を明文で書いているものが、国の通知に1項目あります。支給限度額の管理は被保険者ごとに行われるため、被保険者ごとに支給申請を行うことが可能である、と書かれています。同じ家に、認定を受けた人が2人住んでいれば、枠は2つ立ちます。一方が過去に20万円を使い切っていても、もう一方の20万円は1円も減っていません。どちらの20万円も、保険の対象になる工事費の上限であって、受け取る額ではありません。

枠は、人と住所の組み合わせに立ちます。前の記事は人を固定して住所を動かし、この記事は住所を固定して人を数えています。ここでいう2人は、その家に住民票を置いて住んでいる2人です。住民票を移さないまま親が身を寄せているなら、その家に親の枠はまだ立ちません。

厚生労働省の通知「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」(平成12年3月8日老企第42号)3(5)の本文。「一の住宅に複数の被保険者が居住する場合においては、住宅改修費の支給限度額の管理は被保険者ごとに行われるため、被保険者ごとに住宅改修費の支給申請を行うことが可能である。ただし、一の住宅について同時に複数の被保険者に係る住宅改修が行われた場合は、当該住宅改修のうち、各被保険者に有意な範囲を特定し、その範囲が重複しないように申請を行うものとする。したがって、例えば被保険者が2人いる場合において、各自の専用の居室の床材の変更を同時に行ったときは、各自が自らの居室に係る住宅改修費の支給申請を行うことが可能であるが、共用の居室について床材の変更を行ったときは、いずれか一方のみが支給申請を行うこととなる。」と13行にわたって書かれている
許可と制限が、「ただし」をはさんで同じ一段落に入っています。例に挙がっているのは床材の変更で、書き分けは専用の居室か共用の居室かという部屋の名前。手すりや便器のような物の名前は、この段落に出てきません。(厚生労働省「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」平成12年3月8日老企第42号・2026年8月27日取得)

同じ部屋の中でも、見積の行と行のあいだで分かれます

ただし、枠が2つ立つことと、2つの枠に工事が乗ることは別です。

同じ通知の同じ段落が、「ただし」をはさんで制限を書いています。1つの住宅で複数の被保険者の住宅改修を同時に行うときは、それぞれに有意な範囲を特定し、その範囲が重複しないように申請する。共用の居室の床材を変えたときは、いずれか一方のみが申請する、という例が付いています。高砂市は、同じユニットバスの工事について、各自の専用の居室にかかる分はそれぞれ申請できるが、共用の部分は2人とも申請することはできない、と答えています。

その「範囲」は、部屋の単位とは限りません。冒頭のトイレの3行は、同じ1つの部屋の中にあります。それでも、便器と、床の段差と、手すりは別々の対象物です。分かれ目は壁ではなく、見積の行と行のあいだにも入ります。

逆に、1つに数えられる対象物は、どれだけ大きくても割れません。相模原市は、階段に手すりを設置する工事について、同一の手すりに対して複数の被保険者が申請することはできません、と名指しで書いています。

だから、2つ目の枠に工事が乗るかどうかは、工事の規模でも部屋の数でも決まりません。見積の品目が2人に割れるかどうかで変わります。

編集部が作成した図。見出しは「同じトイレの1回の工事を、品目ごとに分ける」。左に申請する人の箱が2つ縦に並び、それぞれから右の品目の箱へ枝が伸びている。上は「妻(要介護1)の申請」から「便器の取替え(和式から洋式)」の1つへ。下は「夫(要支援)の申請」から「床段差の解消」と「手すりの取付け」の2つへ。「手すりの取付け」の箱だけが緑で強調されている。どの品目の箱も枝が1本しかつながっていない。下に赤い字で「同じ1本の手すりを2人では申請できない」、右下に「図:ゆたか日和編集部(厚生労働省の通知と自治体の掲載例をもとに作成)」とある
この例では、二人の認定は要介護1と要支援で揃っていません。分かれ目になっているのは認定の重さではなく、その品目がどちらの必要から出てきたかです。

ここを金額から読むと、いちばん高い工事のところで反対に外れます。

1本の手すりや1つの便器のように、対象が1つに数えられる工事では、2人いても、保険の対象になるのは20万円までです。あふれた分を、使い残しているもう一方の枠へ回すことはできません。神戸市は、便器の取替えのようにどちらか一方のみが申請する場面について、25万円かかる場合に、その一方の上限額を超えた分を他方が申請することはできない、と書いています。

2つの枠が合わさって40万円分になるためには、範囲の重ならない工事が2人分そろっている必要があります。工事の総額に40万円まで出る、という意味ではありません。

柏市のリーフレット「介護保険における住宅改修費支給申請について」の住宅改修費Q&A(6)にある一文。「例えば,2名の被保険者がいる住宅において,40万円の費用をかけて手すりを複数箇所設置した場合は,被保険者ごとに箇所を分けてそれぞれ20万円申請できますが,同一の便器の取替えに40万円かかった場合は,いずれか1名のみが20万円を申請できます。」と4行にわたって書かれている
同じ40万円が、1つの文の中で反対の結論に着きます。手すりのように箇所が複数あれば2人で分けられ、便器のように1つに数えられれば1人ぶんで止まります。(柏市「介護保険における住宅改修費支給申請について」2020年10月版・2026年8月27日取得)

市のページを開いても、この話は出てこないことが多い

自分の市のページで確かめようとすると、たいてい何も見つかりません。今回、本文まで読んだ27の自治体のうち、複数の被保険者の扱いに触れていた市は7つでした。調査の都合で集めた27件なので、全国の割合として読める数字ではありません。

書いてある7つの中でも、置き場所が違います。八王子市は一般向けの短いページの時点で、1つの住宅に複数の要介護者等がいる場合、それぞれの方に支給限度基準額20万円が適用されます、と書いています。神戸市と柏市の同じ位置のページには一言もなく、この規則は詳細版のPDFとリーフレットに入っています。

四日市市の手引き(令和2年6月版)は、ひとつの工事を要介護認定を受けた夫婦で按分して申請することはできません、という注意書きを2箇所に置いています。他の市にある「範囲を分ければ分担できる」という説明は、この手引きの中に見当たりませんでした。この記事がここまで見てきた分け方は、便器はこちら、手すりはあちらと、品目ごと丸ごとどちらかへ寄せるやり方です。四日市市の注意書きが、この分け方まで禁じているのかどうかは、この手引きだけからは判別がつきません。自分の市の資料に同じことばを見つけたら、その箇所を指して、窓口で工事の単位の考え方を確かめてください。聞くのは、見積のどの行までを一つの工事と数えるのか、です。窓口に持っていく話は、この質問で終わります。

今回の確認は、各市の記載の有無までです。運用そのものは照会していませんが、市のページに何も書いていないことを、枠が1つである証拠として読むことはできません。そして、あなたの見積のこの行が誰の分になるかは、どの市のページにも書かれていません。

申請の時点で、割り振りは決まっている必要があります

この記事を読んで、まだ決まっていないことが一つ残ります。どの品目を誰の分として申請するか、です。

その割り振りは、業者の見積書にも市のページにも載っていません。各自の必要度から出てくるものだからです。冒頭のトイレの3行も、2人のどちらが何に困っているかで並びが変わります。

相模原市は、給付が個人ごとに行われるため、申請書は個人ごとに各々提出する必要があります、と書いています。国の通知も、その範囲が重複しないように申請を行うものとする、と申請について書いています。

この行は妻の分、この行は夫の分。そう並んで初めて、範囲が重なっていないかを窓口が突き合わせられます。見積の一行ごとに、名前が一つずつ入ります。

2026年8月27日時点の法令・通知と、各自治体が同日に公開していた記載によります。20万円は保険の対象になる工事費の上限で、実際に保険から出る額は負担割合によって変わります。本文の20万円・25万円・40万円は、いずれも工事費の側の額です。上限の主語が個人であることは介護保険法第45条第4項・第57条第4項、上限額の算定は同法施行規則第76条・第95条、一の住宅に複数の被保険者がいる場合の取扱いは平成12年老企第42号3(5)によります。トイレの改修工事の例は、八王子市の手引き(令和6年11月改正版)が出典を「WAM NET 13.8.6 厚生労働省回答」と表記して掲載しているもので、豊後大野市のQ&A(令和6年1月31日版)が出典の表記なしにほぼ同一の文言を載せています。自治体の記載は、神戸市の詳細版PDFが2025年10月版、柏市のリーフレットが2020年10月版、相模原市のQ&Aが令和6年4月改定版、八王子市が令和6年11月改正版、豊後大野市が令和6年1月31日版、高砂市が2023年のQ&A、四日市市の手引きが令和2年6月版で、いずれも公開されているページとPDFを読んだ範囲の観察です。各市への問い合わせは行っていません。

確かめられていないことも、いくつか残っています。「WAM NET 13.8.6 厚生労働省回答」の原文そのものは特定できていません。介護保険法には2027年から2029年にかけて施行される未施行の改正がありますが、それが第45条・第57条に及ぶかどうかは、改正条文の本体まで照合していません。老企第42号3(5)の後段は「一の住宅について同時に複数の被保険者に係る住宅改修が行われた場合は」と書き出しており、一方が先に工事を終えた後にもう一方が別の時期に同じ住宅を改修する場合の扱いは、今回の資料からは分かりませんでした。同一の箇所を2人が重複して請求した場合に、保険者の審査がそれをどう扱うのかは調べていません。四日市市の手引きについては、令和2年6月版より新しい版があるかどうかを確認しておらず、同市への照会も行っていません。本文まで読んだ27自治体は無作為に選んだものではないので、記載のある市の割合を全国に広げて読むことはできません。

この記事が扱っていない範囲も書いておきます。対象になる工事の種類の要件、申請の様式と時期、着工の日、住宅改修が必要な理由書、受領委任払い、施工業者の選び方には触れていません。要介護度が上がったときに枠が改めて立つ仕組みは2026年8月13日の記事、転居したときの扱いは本文でリンクした記事で扱っており、本記事では同じ住所に立つ枠の数を見ています。

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