「生涯に20万円」。名古屋市の公式ページはこの言葉を使っています。山県市は「生涯で20万円」。ただ、どちらの市も同じページの続きで、枠が立ち直る場合があることを書いています。独り歩きしているのは、前半だけです。
介護保険法に「生涯」という言葉はありません。住宅改修の20万円という上限も、法律の条文には出てきません。金額を定めているのは、本文が3行しかない告示です。
そしてその20万円は、受け取る額ではなく、保険の対象になる工事費の上限です。自己負担1割の人が使い切ると、出るのは18万円で、自己負担が2万円。
この総額を計算し直す仕組みが、法令の中に2か所あります。ひとつは要介護度が大きく上がったとき(自治体の資料では「3段階リセット」と呼ばれます)、もうひとつは住まいが変わったとき。前者は省令が「別に厚生労働大臣が定めるところによる」と告示へ渡してしまっているので、条文を順に読んでいっても存在に気づけません。
「生涯20万円」は、説明のための要約であって、制度の定義ではない。ただ、要介護度が大きく上がったときの側については、いまから使えるかどうかを考える必要がありません。答えはもう出ています。
要支援のときに使った分と、要介護になってから使った分は、ひとつの枠でまとめて管理されます。要支援から要介護になっても、区分が少し動いたくらいでは、20万円は20万円のままです。
大きく上がったときの立て直しが数えるのは、最初に住宅改修費の支給を受けた工事の、着工日の区分です。いまの要介護度でも、認定を受けた日でも、申請した日でもない。

しかも数えるものは要介護度そのものではなく、「介護の必要の程度」という6段の目盛です。要支援2と要介護1は、この目盛では同じ段に乗っています。だから要支援1の段から数えて要介護2まで行った人は、区分としては3つ動いているのに、段は2つしか上がっていません。
起点は後から動きません。要介護3のときに初めての工事をして、その後軽くなってから2回目の工事をしても、数えるのは要介護3からです。
そして初回が要介護3以上だったなら、3段上がった先が目盛の上にありません。

住まいが変わったときのもう一つの立て直しは、この目盛とは別の物差しで決まります。
3段階リセットも残額も、取っておけません
さきほどの着工日は「どの区分から数えるか」の話でしたが、ここでは「いつ着工していないといけないか」です。
3段上に届いても、届いただけでは何も起きません。その区分の認定が有効なあいだに工事へ着工していないと、立て直しは適用されない。要介護4になった年に工事をせず、要介護3に戻ってから着工すれば、その工事には使えません。重くなるのを待つという選択は、そのまま権利を落とすことがあります。
もうひとつ、逆向きの待ち方があります。20万円は数回に分けて使えるので、枠を残したまま次を考えている人がいます。
要介護1のときに工事費で12万円の改修をして、20万円のうち8万円を残している人がいるとします。この人が要介護4になって立て直しを使うと、枠は28万円にはならず、20万円になります。残っていた8万円は消えます。金額はどれも工事費の側です。

消えた分は、その後で要介護度が下がっても戻りません。立て直しのあとは、新しい20万円だけで管理が続きます。そして要介護度の側の立て直しは、一人につき1回きりです。
立て直しが視野に入る人にとっては、残しておくことに得はない、というところまでは言えます。ただ、だから先に工事を積んでおけという話ではありません。制度が時期を縛ることはあっても、どこをどこまで直すかは暮らしのほうから決まります。
もう一つの入口が見ているのは、住所です
枠の管理は、その人が現に居住している住宅について行われます。だから住まいが変われば、要介護度と関係なく、改めて20万円まで支給を受けられます。最初の工事のとき要介護3以上だった人にも、こちらは閉じていません。
対象になるのは、介護保険被保険者証に住所として書かれている住宅です。子の家に一時的に身を寄せているだけでは対象になりません。住民票を移せば被保険者証の住所も変わるので、そこから対象になります。同じ家で同じように暮らしていても、ここで結果が反転します。
転居先の住宅を新築する場合は、そもそも住宅改修ではないので対象外です。建ったあとに手すりを付ける工事は対象になります。
枠のために住まいを動かす、という話ではありません。効くのは、呼び寄せや住み替えがすでに決まっている人と、最初の工事のあとにもう住まいが変わっている人だけです。
自分の市のページを開いて、いま読んだことが1行も見つからないことがあります。例外まで書いているページがある一方で、調べた13団体のうち5団体の案内ページには、例外が一文字もありませんでした。政令指定都市の横浜市のページにも、「段階」「転居」という文字はありません。
どちらの立て直しも、決めているのは国の告示と省令です。ページに書かれていないことは、その市に制度がないことを意味しません。住宅改修は着工前に申請する制度なので、実際に工事を進めるなら市の介護保険の窓口への相談が先になります。
いまの家で次の工事を考えている人は、最初の工事に着工した日の認定から、3段上がどこになるかを引けます。当時の区分が分からなければ、そのときのケアマネジャーが知っています。
3段上に届いた区分の認定が有効なあいだに着工する。もう届いている人にも、これから届く人にも、3段階リセットで最後に残る条件はこれです。答えを先に持っていれば、届いたところからそのまま申請に進めます。
2026年8月13日時点の制度と自治体の記載です。負担割合で変わるのは18万円と自己負担2万円だけで、2割・3割の人は保険から出る額がその分小さくなります。20万円の枠も、本文の12万円・8万円・28万円も工事費の側の額なので、割合が変わっても同じです。20万円は消費税込みの額です。20万円を定めているのは平成12年厚生省告示第35号、介護の必要の程度が3段階上がった場合の取扱いは同第39号と介護保険法施行規則第76条第2項、転居した場合の扱いは同条第1項によります。自治体の記載状況は、各市の住宅改修の案内ページ1〜2枚を見た範囲で、別のページやPDFに説明がある可能性は排除できません。

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