父の登記簿の住所が本籍と違うのに、父の住民票の除票も戸籍の附票も、もう出せない。それで相続登記が止まっているなら、法務局の登記手続案内ではこう聞けます。「相続人申告登記を申し出たいのですが、父の住民票の写しも附票も出せません。申出人の私が印鑑証明書を付けた上申書を書き、登記簿の父と戸籍の父が同じ人だと示す形で、受けてもらえますか」。
たとえば、父名義の家。登記簿の住所は父が家を取得したときのA市のままで、本籍とは違います。役所に請求しても、父の除票も附票も1通も出てこず、以前の記事で探した紙の権利証も見つかっていません。相続を知ったのは令和6年4月1日より前。兄弟の分け方はまだ決まっておらず、長男だけが申出人として自分の分を申し出ます。
知ったのがその日より前なので、相続登記の期限は令和6年4月1日から数えて3年、令和9年(2027年)3月31日です。2026年10月16日の時点で残り166日。4月1日以降に知った人は、知った日から3年になります。期限内に相続人申告登記を申し出て受け付けられれば、相続登記の義務を果たしたものとみなされます。ただし申し出る前に遺産分割が済んでいれば、この扱いにはなりません。申し出たあとの遺産分割で長男がこの家を取得すれば、分割の日から3年以内に相続登記を出す義務が長男に新しくかかります(分割の前か後かで変わる話)。
上申書の一文は、法務局向けの取扱いにある
法務省の相続人申告登記のご案内は、登記簿の住所が本籍と違うときに添える書類を、住民票の写し、除票の写し、戸籍の附票の写しの3種に絞っています。どれも、登記簿の住所と同じ住所が載っているものです。相続人申告登記のページにも、申出書の記載例と様式にも、上申書は出てきません。

3種のどれも出せないこのケースは、案内だけを読むかぎり、申出の手前で止まるように見えます。
上申書の語は、法務省民事局長が全国の法務局にあてて登記官の扱いを決めた通達に、一度だけ出てきます。申出に戸籍の証明書が出された場合について書いた、次の一文です。

このケースは、文言の上では条件をそろえています。長男は相続人だと分かる戸籍の証明書を出す。登記簿のA市の住所は本籍と違う。父の住民票の写しも附票も、1通も出せない。
除票や附票は取れたのに、どれにも登記簿の住所が載っていなかった、という場合は事情が違います。出せる紙は手元にあり、通達の「提出することができない」が、つながる紙を出せないことまで指すのかは、通達に書かれていません。そこに当たる人は、自分の状態がこの一文に入るかどうかから、法務局に聞くことになります。
書く人は「申出人」
通達は、この上申書を書く人を「申出人」とし、相続人全員とは書いていません。日本司法書士会連合会の一般向けの解説は、上申書に付ける印鑑証明書は申出人のものだけで足りる、と読んでいます。
以前の権利証の記事で上申書の名前に触れたのは、相続登記の側の話でした。それも法務局の案内ではなく、法務局向けの通知を司法書士のサイトが転載したページの言い回しで、「相続人全員の上申書」です。同じ名前の書類でも、相続人申告登記の通達では書き手の語が違います。
この一文に、ほかの相続人は出てきません。それでも、兄弟の書類や印鑑証明書まで求められないかは、相談の場で確かめておきます。
相談に持っていくものと、聞いたあと
相談先は、家のある土地を管轄する法務局の登記手続案内です。持っていくのは、登記事項証明書と、長男が相続人だと分かる戸籍の証明書。冒頭の問いは、そこで上申書の語を出して聞きます。
受けると言われたら、上申書には通達のとおり「所有権の登記名義人と戸籍謄本等に記載された被相続人とは同一である」旨を書き、長男自身の印鑑証明書を付けます。上申書の公式の書式はなく、言い回しとして使えるのはこの一文だけです。相続人申告登記は押印が要らないと案内されていて、記載例にも「押印は不要です」とありますが、上申書は印鑑証明書を付ける書類です。申出書のどこにどう書き添えるかも、同じ相談で聞いておきます。
申出は、同じ法務局の窓口に持っていくか、書留で郵送します。オンラインでもできますが、印鑑証明書付きの上申書の付け方は、公式の資料に書かれていません。
受けないと言われたら、あるいは答えがはっきりしなければ、上申書の代わりに何を出せば受けるのかを、その場で聞きます。期限を守る道はもう一つ、相続登記そのものを出すことで、そちらは以前の権利証の記事の書類の組み合わせと、司法書士への相談に戻ります。どちらの答えでも次の手を打てるよう、相談は期限の直前に置きません。出した申出に補正が入った場合の扱いも確かめられていないので、なおさらです。
売るときと、分け方が決まったとき
相続人申告登記は、誰が相続したかという権利関係を示すものではありません。家を売るとき、遺産分割で家を取得した人が相続登記を出すときには、登記簿の父と戸籍の父が同じ人かを、もう一度示すことになります。法務局の相続登記の案内に並ぶのは同じ3種と、それでもつながらないときの紙の権利証までで、申出人の上申書は出てきません。
申出を済ませたあとも、登記簿の父の住所はA市のまま残ります。
法務省民事局長通達「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続人申告登記関係)」、法務省「相続人申告登記手続のご案内」(令和8年3月版)、法務省「相続人申告登記について」と相続人申出書の記載例・様式、法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」、法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①)」(令和6年9月版)、東京ブロック管内法務局「相続登記ガイドブック」、e-Gov法令検索の不動産登記法、日本司法書士会連合会「相続登記の実務─近年の改正を中心に」、司法書士のサイトに転載された法務省民事局の通知(以上、2026年10月16日確認)によります。

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